最近、たまたま目にした二首の和歌にいずれも「ひととせに ふたたび」という語句が入っていました。語調も良いためか、妙に印象に残りましたので、この語が含まれている和歌を集めてみました。
語句自体の意味は「一年に二回」ということですが、検索にヒットした八首の和歌を読むと、大きく三種類に分けられそうです。
1.「一年に二度はないのだから、その貴重な機会を」と詠んだもの
わたしもり ふねはやわたせ ひととせに ふたたびかよふ きみにあらなくに
渡し守 船はや渡せ ひととせに ふたたび通ふ 君にあらなくに
よみ人知らず
(萬葉集 第2077番)
天の川の渡し船の船頭よ、一年に二度はやって来てくれない織姫を、早くこちらに渡らせておくれ。
若干語句は異なりますが同一歌と思われる歌が拾遺和歌集(第1085番)に入集しており、そちらでは柿本人麻呂作とされています。
こゑたえず なけやうぐひす ひととせに ふたたびとだに くべきはるかは
声たえず 鳴けや鶯 ひととせに ふたたびとだに 来べき春かは
春は一年に一度しか来ないのだから、鶯よ、声を絶えさせることなく鳴き続けてほしい。
ひととせに ふたたびさかぬ はななれば むべちることを ひとはいひけり
ひととせに ふたたび咲かぬ 花なれば むべ散ることを 人は言ひけり
一年に一度しか咲かない桜。なるほど、だからこそ人々は散ってしまうことをこれほどまでに惜しむのであるな。
ひととせに ふたたびもこぬ はるなれば いとなくけふは はなをこそみれ
ひととせに ふたたびも来ぬ 春なれば いとなく今日は 花をこそ見れ
一年に一度しか来ない春だから、今日は気を逸らすことなく花を見よう。
2.「まるで今年二度目のようだ」と詠んだもの
いろかはる あきのきくをば ひととせに ふたたびにほふ はなとこそみれ
色かはる 秋の菊をば ひととせに ふたたびにほふ 花とこそ見れ
よみ人知らず
(古今和歌集 第278番)
時とともに色が変わる秋菊は、まるで一年に二度咲く花のようだ。
うめがえに ふりつむゆきは ひととせに ふたたびさける はなかとぞみる
梅が枝に 降りつむ雪は ひととせに ふたたび咲ける 花かとぞ見る
梅の枝に降り積もる雪が、まるで一年に二度咲いた梅の花のようだ。
3.暦のいたずらや花の早咲きで「今年二度目」が生じたことを捉えた機知の歌
はつねとは おもはざらなむ ひととせに ふたたびきたる はるのうぐひす
初音とは 思はざらなむ ひととせに ふたたび来たる 春の鶯
年が明けないうちに立春が来たから、鳴く鶯の声も「初音」ではないのだなあ。
ひととせに ふたたびにほふ うめのはな はるのこころに あかぬなるべし
ひととせに ふたたび匂ふ 梅の花 春の心に 飽かぬなるべし
紀貫之
(風雅和歌集 第892番)
年が明けないうちに梅が咲いた。今年二度咲いたのは、梅の花が一年前の春に飽き足らなかったのだろう。
こうして見ると、多くが春を待ちわびる、あるいは行く春を惜しむ歌ですね。このところ寒い日が多く、私自身もまさに「春を待ちわびる」気持ちです。